さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

アベ・ジョンイル、どちらに転んでも

キム将軍も安倍将軍も、似たり寄ったり持ちつ持たれつの間柄。安倍の対外強硬姿勢という売りは、相手の愚行に依存しているからです。安倍氏がもしもキム・イルソンの息子として生まれていたなら、きっとキム・ジョンイルになっていたことでしょう。

北朝鮮の専制は私たちの世界のちっぽけな影の1つにすぎません。私たちの会社のなかを見てみれば、どこもかしこも労働者国家による労働者支配・専制支配ではないですか。

あなたの会社には、社長のありがたいお言葉が飾られていたり、創業者のありがたい偶像がおいてあったりしませんか。創業者が裸一貫から刻苦勉励して大富豪になったなんてつまらん話が伝えられていたりしませんか。

キム王朝にはキム王朝の独自のおとぎ話(伝説)があってそれが王朝を正当化する。それと同じように、資本主義企業でも独裁政権の頭にペンキで後光を描くおとぎ話があるわけです。

むかしむかしあるところに貧しい人がいました、刻苦勉励努力の末、すばらしい会社の持主となって皆さんを雇ってくれてます、云々。もちろんこんなミニ神話は、労働者を1つの組織にまとめていくさいの空想にすぎません。

会社が日々リアルに存在しつづけているのは、日々リアルに労働者の労働が会社の資本をつくりつづけているからです。むかしむかし、は現在をつくりだしていない、空想なのです。

資本を生みだした自己労働という神話に対して、日々リアルな現実は、労働者の労働の産物が労働者の労働を吸収する条件になっているという繰り返し(『資本論』にいう「取得法則の転回」論)。搾取がつぎの搾取の前提になっていく螺旋状の運動です。

資本ではないただの貨幣は貯めるしか増やす方法がないので、最初の資本を思い出そうとすると、勤労と節約によって貯めたんだとする過去の物語が仮定され、これが現在を説明します。ところが、現在のリアルな資本は労働を吸い込んで増えているのであって、自由平等は、労働を搾取する資本の自由や、資本家の平等という、自由でも平等でもない自由平等として実現されている。創業者の勤労という伝説からは断ち切られて、自由が自由ならざる搾取する自由になってます。

「自由社会」「自由主義」だの「自由主義経済」だのうるさくいう人は、想定した外敵における専制政治は批判するくせに、社会的生産における労働者の自由だけは絶対に主張しません。一見摩訶不思議というべきですが、これもこの「転回」です。資本主義企業における専制も、大企業の権力も批判せず、王政を批判した商売人の自由が、資本の自由を解放し、労働者の自由を抑圧するために持ち出されるというわけです。

なお、資本に即して資本の前提は労働者が生産手段から遊離している状態ですから、資本に即した資本の前史は、この遊離の過程にほかなりません(「本源的蓄積」論)。

自由はいたるところで北朝鮮のミニチュア版に転回しつづけているのだぞ。最近の日本の中のミニ北朝鮮の最大のものは、やはり先日の「教育基本法」改悪でしょう。

教育基本法「改正」の本質は、時代に合わせて教育制度を変えるなどという無内容なスローガンにではなく、個人と国家との関係にあります。個人を主体とする人権による国家権力の規制と正統化の原理に対して、異質な全体主義を持ち込むのが「改正」の本質です。人権から遊離した公共原理の主張です。

国を愛せよと法律に明記し、教育統制を強化する改悪は、封建国家の再来ともいうべきじゃないですか。国家による国民の心の指導なんて、まるで「文革」みたいです。前衛による野蛮な大衆の道徳的組織かいな。やっぱり安倍氏は北朝鮮に生まれたら将軍です。

教育基本法改悪は私たちに考え行動する材料を与えたし、改悪された教育基本法は、以前の教育基本法の文面も残して矛盾したものですから、運用で無効にしようとする途によって、この改悪の本質は明らかになるはず。改悪の悪影響が大きいほどに明らかになります。

どっちに転んだって、民衆は鍛えられ、私たちの航海はまともな方向にむかうだろうってことです。

教育基本法改悪は安倍にとって改憲の下地づくりであって、繰り返しますが、問題の本質は憲法(国家の構成原理)にあるのです。

与党の戦前回帰的な復古主義的な蛆の群れは、現代の大きな変動のなかで湧いています。その変動とは、世界規模での資本の集中と、世界規模での軍事力の集中という現代の傾向です。復古主義や戦前の復活にみえるものに対して批判するのは重要ですが、そこだけ見てしまうとかえってそこに依存するようなものではないでしょうか。現代の傾向には公共的なものをどう制御すべきかという問題が貫かれています。民族主義に対して対置すべきは、国際的な公共性を形成する別の途でなければならないと考えます。

* 教育基本法の問題点はさしあたり
あんころブログ
教育基本法「改正」情報センター

追記1 さいきん魚住昭氏が「日刊ゲンダイ」をはじめとする媒体に連載してきた時評を文庫本にまとめました(『国家とメディア』ちくま文庫)。そのなかに「おぞましく、あさましく、残忍なナショナリストたちよ」という短文があります。北朝鮮の子どもたちが餓死してもかまわないという気持ちの悪いナショナリズムを取りあげているのですが、こんな一文が。

《国家と民衆の区別もつかないほど「地方議員」のレベルは低くなってしまったのか》

まさしくこの低レベルに位置するのが安倍だということはいうまでもありません。

追記2 『SIGHT』30号の特集「君は読んだか!自民・憲法改正案の本音」は、吉本隆明、藤原帰一、小熊英二などがそれぞれ思うところを述べていて、なかなか面白いです。
by kamiyam_y | 2006-12-21 23:02 | 自由な個人の権利と国家