さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

生活安全条例と憲法:美肌は育菌

なぜかあまりに忙しく、先週風邪をひいてしまい、無理して講義したら翌日声が出ず、三年ぶりに病欠休講をしてしまったほどです。忙しくて、とりあえずメモだけアップです。

研究以外で先週手にとってみた本をいくつか。斜め読みですので、紹介ではなくて、ただの購入記録です。
すでに読まれた方は感想など教えてくれるとうれしいです。


▽ 「生活安全条例」研究会編『生活安全条例とは何か――監視社会の先にあるもの』現代人文社。

安全は市民の公共的テーマです。公開された情報のもと、市民が民主的にこの問題に取り組み、基本的人権と主権在民という憲法の人権原理にのっとって、ルールをつくっていくことが、将来社会に対して大きな貢献をすることになります。

しかし、今すすんでいる防犯のための住民の自主警察化(監視カメラ・自警団等々)は、住民の善意をまきこんでいるとはいえ、この流れに反するものです。市民による権力のコントロールではなく、権力による市民コントロールの拡大です。警察の権限を縮小することも含めた社会的なしくみを考えるべきなのに、警察が、市民に「防犯意識」を強要し、自分たちの代理として市民の防犯組織をつくっているのですから。
こうした現在の警察国家化の一環として実はあまり知られていませんが、「生活安全条例」制定の動きがあります。

本書は、この条例がはらむ看過できない問題点を、研究者・弁護士など専門家がコンパクトにまとめた入門書です。

この条例は、警察の主導によって制定され、自治体や一般市民に防犯「責務」を負わせています。この制定の背後にひそむ推進動機としては、警察の天下り先確保や、利権拡大、カネの獲得、予算拡大、責任回避があります。何しろ史上最大の公金横領集団である警察を拡大させ、市民をさらにこの窃盗集団の下請けにするのですから、二重三重の収奪をすすめる条例といっても過言ではないでしょう。警察の天下り先拡大、警察の恣意的支配の拡大はきっと、捜査能力のさらなる低下をまねくにちがいありません。

本書の言葉を用いれば、根本的に必要なのは、警察の「権威主義」と「秘密主義」の体質を改革すること、警察の権限の明確化、透明性確保です。また社会のしくみから考え直すことです。
必要なのは、人々の多様性を排除するような防犯意識の強要でも、異質を排除する警察国家ではありません。

治安であれなんであれ、公共的なテーマは、人権をもった一人一人、社会の主人公としての一人一人を唯一の原理とする「憲法」の基本原則から総合的に考えられなければなりません。

たとえば「監視カメラ」を考えるさいにも、捜査における写真撮影には令状が必要なことなど、有効な法令知識が得られそうなので買いました。

警察庁推進による「生活安全条例」の制定に触れている新聞記事として、「自警団 不審者探しで全国で急増」(北海道新聞・特集「あなた見られています 監視と安全のはざまで」第2部「統制へ」①・2005年6月1日水曜日朝刊36面)参照。


▽ 青木皐『人体常在菌の話――美人は菌でつくられる』集英社新書。

人が多種多様な素材を食料にできるのも、じつは、腸内常在菌のおかげなのだ、うんちは、たべもののカスというより、常在菌とそれが出す物質がその多くを占めるのだ、などと書いてある(76頁)のを読むと、すぐ人に話したくなります。

著者によれば、お肌の健康には重要なのが「育菌」なのだという。「運動をして腸内常在菌を元気にして新陳代謝をよくし…[中略]…ビフィズス菌とオリゴ糖で腸内常在菌を育菌する」(163頁)。
ことが、肌のトラブル解消の基本だという。早い話、いい細菌となかよくすることが美肌の鍵。常在菌が不調になると、悪玉菌の毒素で肌荒れやら何やらが、というわけ。
よく化粧品の広告で、皮膚の上から何か成分を塗り込めば、それでお肌のトラブルが万事解決するかのような宣伝文句がありますよね。とってもうさんくさいですけど、そのうさんくささの理由がわかった気がします。

専門家が啓蒙的な本を書くって大事ですね。新しい知識はやっぱりうれしい。
ついでにいえば、厚労省・消費者センター・公取委などによる商品チェックはたしかにありますが、健康情報に対する専門家によるモニタリングシステムは整備されていません。素人は判断材料がないわけですから、健康に働く権利を保障するためにも、そうしたシステムが必要。


▽ 日本弁護士連合会国際人権問題委員会編『企業の社会的責任と行動基準――コンプライアンス管理・内部告発保護制度』別冊商事法務264号。
 奥山俊宏『内部告発の力――公益通報者保護法は何を守るか』現代人文社。


企業も個人もどちらも、私人だからその内部は等しく不可侵、「立ち入るべからず」である。
というならば、ただの抽象論。

企業の内部は、すでに、諸個人がつくる公共空間の一部をなしている。

個人のプライバシーの権利と、企業の情報公開や、公益通報者保護は、一見すると反対方向の動きにみえるが、じつはどちらも、個人の権利の発展にほかならない。どちらも、公共空間の拡大にほかならない。

日本の公益通報者保護法という特別な法律がはたしてほんとうに内部告発に有効か、考えてみたいです。


▽ ドロシー・ネルキン&M・スーザン・リンディー『DNA伝説』工藤政司訳、紀伊國屋書店。

大衆文化における「DNA」や「遺伝子」はすでにオカルトの域に達しています。というのは、こうした用語法は、人間を社会から切りはなして、ある神秘的な流出源から説明しておわりだからです。この種の運命論は、社会的ルールづくりを不要とみなすイデオロギーであり、社会問題から目を逸らさせ、人々を社会的関心から遠ざけ、あきらめと差別に安住させる機能を果たし、社会制度の崩壊・強者の論理と、政策の削減を正当化する支えにもなりうると危惧します。
「遺伝」という大衆神話は、人々をその社会的協同的本質から引き裂き、連帯を引き裂き、思考を停止させるものです。

血液型性格判断にも通じると思い買ってみました。

血液型性格判断については何回か書きましたが、参考になるページを1つここで追加しておきます。Dr.Apple's Lab:血液型で性格判断のウソ その1
by kamiyam_y | 2005-06-28 01:07 | 自由な個人の権利と国家