さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

三丁目食堂

食べたことはあるんですけど、背後でこんなことが行われていたとは知りませんでした。

asahi.com:朝日新聞の速報ニュースサイト
 →asahi.com:知的障害者に「奴隷生活」 保護の4人、経営者らを提訴 - 就職・転職

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知的障害者に「奴隷生活」 保護の4人、経営者らを提訴

2008年02月13日

 札幌市の食堂で住み込みで働いていた知的障害のある32~51歳の男女4人が13~31年間、無報酬で劣悪な生活を強いられ、07年6月に保護されていたことが13日わかった。労働時間は1日十数時間で休日は月2回。……4人は同日、「奴隷のように働かされ、障害者年金も横領された」などとして経営者らを相手どり約4500万円の損害賠償を求め、札幌地裁に提訴した。経営者は現在、行方がわからないという。

 4人は、32歳の男性1人と35~51歳の女性3人。……

 4人を保護して暮らしぶりを聴き取った弁護士によると、4人は食堂2階の部屋などに住み、毎日午前6時ごろ起床。仕事中はトイレに立っても怒鳴られ、午後10時ごろまで働かされた。食事は残り物ばかりで、調理室の食べ物を持ち出してしのいでいたという。

 休みは月2回で、現金は週1回、銭湯代を渡されるだけ。入浴は休日しか許されず、……。歯磨きも「仕事を始めてからほとんどしたことがない」といい、……保護時は緑色の歯石がびっしりたまっていたという。

 4人は長期にわたって恐怖感を植え付けられ、逃げ出すことができなかったという。親たちも知的障害があるなどの事情で、後ろ盾になれる状態ではなかったという。

 弁護士の電話相談に事情を知る人から情報が寄せられたことから、4人は障害者施設に保護された。発見時は4人ともやせ衰え、繰り返し「早く食堂に戻らないと大変なことになる」とおびえていたという。

 食堂の経営者らは4人の障害基礎年金の手続きも無断で行い、約2600万円を横領していた疑いもあるという。経営者は弁護士に「面倒をずっと見てきた。責められることはない」と話したという。

 弁護士は「自己主張のすべがないのをいいことに、奴隷のような環境で人格をおとしめた。裁判を通じて警鐘を鳴らしたい」と話している。

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「~という」が計7回も出てきます。日本語の文末表現はむずかしいですね。

他にも記事はたくさんありますが、この記事で事件の概要、事件をなす重要な事実と思われるものをつかめますので、載せておきました。

さきほど現場検証に行ってみたところ、すでに「三丁目食堂」はなく更地になってました。ちなみに、近くにはスープカレー横町に出店しているネパール料理店デブデビがあります。

私が入ったのは7、8年前で、それ以降全く行っていない。そのときは、麺とか定食とか食べた気がします。名前どおりの大衆的な食堂ってやつです。

経営者は無知だが善意だったんでしょうかね。「面倒を見てきた」と言ってますけど。

とんづらしてるわけですから、まあ、分っているのでしょう。知的障がいのあることをいいことにして給料も払わず、風呂にも入れず、飯は立ったままで食わせ、余った原材料でまかなえる安価な労働用具として使っていたということでしょう。

劣悪な労働環境・生活環境を記事は伝えています。

しかも、「おびえていた」「恐怖感を植え付けられ」というのが本当だとしたら、身体の自由を奪うことですから、人格的隷属を強制する労働であって、横領にとどまらないんじゃないか。

外国人研修生・実習生の搾取を思い起させます。

機械制大工業が勃興してきたときに家内工業や工場制手工業において搾取が熾烈になったという歴史も思い起させますね。

STVテレビではこんな報道がされたようです。事件の論評のために引用します。

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STV札幌テレビ放送(北海道)
 →これまでの特集 STV http://www.stv.ne.jp/tv/dnews/past/index.html?idno=20080226194554

……
(銭湯の番台さん)
「3人分お金を頂いたんですが、(一人の方が)入らないとおっしゃるから、1人分(の入浴料)をお返ししていた」

【自動販売機・イメージ】
風呂に入らなかった一人分の入浴料で3人は3本のジュースを買い、美味しそうに飲んでいたといいます。

(銭湯の番台)
「3年ほど前からから…痩せたというよりもやつれた…病気じゃないかと思うくらい、 顔色も良くなかったし」

……

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ここに出てくる銭湯、たぶん食堂の近くのですね。こちらも7、8年前に入ったことあります。唯一の給料の週に一度の銭湯代、一人の入浴料を浮かして三人のジュース代にするなんて。

番台さんも「やつれた」と証言してます。何で発覚しなかったのか。

このニュースでは、「札幌市知的障害者職親会」も取材されています。「知的障害者に働く場を提供する札幌市内の企業、180社で作る団体」で、市からの補助金を食堂に渡していたよう。

この職親会のたった一人の職員にインタビュー。

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「いきなり、疑うような視点では今までの職親会は成り立ってこなかった」
「雇用主の方を大事にしてきた。
……
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「職親会」という企業団体も自分たちの支援が悪用されるとは思いもよらなかったのでしょうか。それにしても、ここは善意だけではなく外面的なルールでしょう。補助金のルートになってたわけですから。知的障がい者を雇う企業は善意にもとづいているのだと想定して、疑う視点がなかったというのもわからなくはないとはいえ、貨幣の動きを悪事に用いないためには善意よりも形式的監視体制が必要。

この「職親会」も北門信用金庫と一緒に訴えられています。

毎日jp - 毎日新聞のニュース・情報サイト
 →住み込み食堂無報酬労働:被告2者、争う姿勢 食堂側は答弁せず--札幌地裁、初弁論
今すぐ!!北海道のニュースサイト BNN [Brain News Network]
 →http://www.bnn-s.com/news/08/04/080414124413.html

つぎの記事を見ると、市の方ではこの障害者と面談したときに「長時間労働」に気づいて、白石区に調査を求めたことがでてきます。発覚しかけてたのに放置されてしまったんですね。

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ユニバーサルデザインとバリアフリーの情報ページ、毎日新聞「ユニバーサロン」
 →ユニバーサロン クリッピング
  →住み込み食堂無報酬労働:札幌市、01年に把握 区職員「問題なし」

札幌市白石区の飲食店「三丁目食堂」で勤務した知的障害者4人が、無報酬で働かされたとして経営会社などを訴えた問題で、市は01年8月に障害者と面談した時点で、「かなりの長時間労働が考えられる」と判断し、白石区に調査を求めたが、区の担当職員が不問に付していたことが分かった。これまで市は06年10月に障害者3人と面談し初めて疑念を抱いたと説明していた。……

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この記事も最初の文の末尾は「~わかった」です。いらいらします(笑)。

それはいいとして、知的障害者に対する不法な労働強制が数十年にわたり放置されていた現実は悲しい。行政も、地域の隣人も、企業団体も気づかないとは。

で、この事件について、今朝の北海道新聞の「追跡『三丁目食堂』-憲法25条 生存権は」という記事(4月30日16版27頁第1社会面)が、今紹介した記事にはない視点があって面白かった。

働いていた人たちの親にインタビューしてまして、「家で面倒を見ることもできず、地方では仕事も見つからない」という厳しい地方の生活の現場にまで視線がとどいており、なかなか考えさせられるところがありました。

親にはいつも、経営者にどこかに連れて行ってもらった楽しい思い出を語っていた、という趣旨の話なんてせつない。

逃げた経営者が搾取したのは、労働時間だけではないのですね。住み込みで働く場所があるだけでもうれしいというようなつつましい願いをも搾取してきたのだな、と。その搾取を許してしまったのは、私たちの地域社会であり、私たちの行政であり、私たちの企業社会なのであったのだな、と。
by kamiyam_y | 2008-04-30 21:16 | 企業の力と労働する諸個人