さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

改憲手続法案(いわゆる「国民投票法案」)の脱公正性

醜聞に事欠かない内閣ですが、採決強行の方針を固めてるらしい。

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民主党は小沢-管的なリベラル対抗路線で通せないところが痛い。

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「日本国憲法の改正手続に関する法律案」というタイトルからしたら、「国民投票法案」はやっぱりおかしいですね。

略したら改憲手続法案じゃないですか。国民投票一般を規定してるわけでもないし。

報道では、与党は、4月12日に委員会、13日に本会議で採決し参院に送るという構え。先月27日に衆議院憲法調査特別委員会に提出し、与党だけの賛成で公聴会の日程を決め、28日の地方公聴会では、8人の公述人のうち6人が法案の拙速審議を批判。

ということなので、以下はただの繰り返しですけど、また書いときます。

腐敗と疑惑のデパートの感を呈してきた内閣ですが、なぜ首相が超タカ派路線を急いでいるのかというと、たぶん数年後の米軍再編に向けてのことでしょう。年金、医療、格差、景気といった国民の現実的で平均的な利益は口先だけで片づけてる首相が、憲法記念日までの成立を自民党に指示したのは、支持率がさがっても自分のイデオロギーを通すのだとする勘違いのリーダーシップのためだけじゃないでしょう。

まあ、光熱水費ただの議員会館で2880万円もの光熱費を計上した議員を庇うのは歪んだ男気でしょうけど。1本5000円のミネラルウォーターが必要経費で落とせるならみんなどんどん真似しましょう。

結局、数の力で押し通せということです。教育基本法改悪、防衛庁の省への昇格とともに、一連の政治的イデオロギー的な流れを進めてしまえということです。それも、小泉劇場の手土産を使ってです。

今の衆院の数の優位は小泉が郵政民営化法案の参院での否決廃案に対してなぜかわかりませんけど、衆院を解散させて「郵政民営化の民意を問う」とか宣伝して選挙に持ち込んだところからきてます。国民は改憲を委任したとはいえません。格差是正や社会保障制度の拡充、年金制度の立て直し、といった深刻な課題をさしおいて、特異な政治イデオロギーを実現しようとする姿勢にあるのは狡さだけかと。

その時々の国会の勢力地図は国家権力のなかの地図。それを反映して国家権力そのものを規制している憲法を変えようとすること自体転倒してます。憲法は、人民主権を実現するために、国家権力に縛りをかける近代の基礎的関係ですから、安易な改正を阻止するように制度設計されてます。

マガジン9条『伊藤真のけんぽう手習い塾』「第三十三回 憲法改正手続法 その1」

このページで「憲法は、その時代の国民の多数派でもやってはいけないことを予め規定しておくものです」と述べられているように、 国民多数の意思をバックにしてすら時の政治権力は暴走しうるのですから、その時々の権力に対する禁止命令を根源的に定めているものとして憲法が社会自身の指針として必然化しているのです。憲法は、社会がそれに屈折して権力を制御するメタな規範です。

とりあえず衆議院-議案

法案の裏に隠された意図を、3点だけ確認しておきます。

第1に、投票事項のまとめ方、くくり方によって議論を誘導することです。抱き合わせ戦略です。

第百五十一条 国会法の一部を次のように改正する。

  第六章の次に次の一章を加える。

    第六章の二 日本国憲法の改正の発議

 第六十八条の二 議員が日本国憲法の改正案(以下「憲法改正案」という。)の原案(以下「憲法改正原案」という。)を発議するには、第五十六条第一項の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。

 第六十八条の三 前条の憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。


与党が「関連事項」を恣意的にまとめて、国民多数が望まない項目を、多くが賛成する項目と同じ事項とワンセットにすることによって、改憲案を通す危険性があります。

マガジン9条『伊藤真のけんぽう手習い塾』「第四十二回 統一地方選挙」

広いくくり方によって提出すれば、それによって国民に譲歩を強いることが可能となります。

与党は、通したい項目を他の項目と抱き合わせて案として提示することによって、○×の選択を迫り、国民の望まない条文を通せるでしょう。国民多数が望まない項目が入っていても、それを取除いたり修正することができないならそれは、本質的にはまだ「一括投票」のままというべきでしょう。

第2に、表現の自由の制限によって、自由な意見発表、判断材料の流通という人民一人一人の自由な判断を制限することです。

 (公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止)

第百四条 次に掲げる者は、その地位を利用して国民投票運動をすることができない。

 一 国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第二項に規定する特定独立行政法人をいう。第百十一条において同じ。)、特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。第百十一条において同じ。)若しくは日本郵政公社の役員若しくは職員

 二 公職選挙法第百三十六条の二第一項第二号に規定する公庫の役職員

 (教育者の地位利用による国民投票運動の禁止)

第百五条 教育者(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に規定する学校の長及び教員をいう。)は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位を利用して国民投票運動をすることができない。


「地位利用」という曖昧な言葉を使うことで、国家権力は、自分たちに都合のよい裁量の幅を拡げることができます。罪刑法定主義に反するってやつですね。曖昧な規定ですから、自由な言論を萎縮させるでしょう。

いまだに微罪逮捕によって権力が思想良心の自由を取り締まっている現実を延長してるといえましょう。十二分に危険な条項でしょ。戦争について考えるビラを配布して逮捕されたり、反戦標語の落書きで逮捕されたりと、言論弾圧が実際あるんですから。

私たちが憲法学者から有益な判断材料を得ることも、研究者が憲法の歴史を人々に公開しアクセスさせることも、制限されるでしょう。表現の自由と知る権利とを空洞化することによって議論を封じるわけです。

マガジン9条『伊藤真のけんぽう手習い塾』「第三十四回 憲法改正手続法 その2

自由な表現行為こそがとらわれない深い判断に到達する大前提です。

なお、罰則規定の法案に盛られていないとされる点はどうでしょうか。

情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士 憲法改正国民投票法案で、「自民が公務員への罰則規定を撤回」との記事は誤報だ~メディアは猛省を!

ここで言われているように、「国民投票運動」にも国家公務員法と地方公務員法の「政治的行為の制限」を「適用」するのだから、ちっとも前進じゃないし、公務員が勤務時間外のビラ配布で逮捕されくらいですから、そもそもこの公務員法における政治的行為禁止自体違憲の疑い濃厚なのです。

刑法の職権乱用罪や公務員法の懲戒処分を適用するのだから、自由な言論に対する脅迫としては充分すぎます。

第3に、「広報協議会」という名の不公正な宣伝機関の存在です。

第二節 憲法改正案広報協議会及び国民投票に関する周知

 (協議会)

第十一条 憲法改正案広報協議会(以下この節において「協議会」という。)については、国会法に定めるもののほか、この節の定めるところによる。

 (協議会の組織)

第十二条 協議会の委員(以下この節において「委員」という。)は、協議会が存続する間、その任にあるものとする。

2 委員の員数は、憲法改正の発議がされた際衆議院議員であった者及び当該発議がされた際参議院議員であった者各十人とし、その予備員の員数は、当該発議がされた際衆議院議員であった者及び当該発議がされた際参議院議員であった者各十人とする。

3 委員は、各議院における各会派の所属議員数の比率により、各会派に割り当て選任する。ただし、各会派の所属議員数の比率により各会派に割り当て選任した場合には憲法改正の発議に係る議決において反対の表決を行った議員の所属する会派から委員が選任されないこととなるときは、各議院において、当該会派にも委員を割り当て選任するようできる限り配慮するものとする。


 
(協議会の事務)

第十四条 協議会は、次に掲げる事務を行う。

 一 国会の発議に係る日本国憲法の改正案(以下「憲法改正案」という。)並びにその要旨及び解説等並びに憲法改正案を発議するに当たって出された賛成意見及び反対意見を掲載した国民投票公報の原稿の作成

 二 第六十六条の憲法改正案の要旨の作成

 三 憲法改正案に関する説明会の開催

 四 第百七条の規定によりその権限に属する事務

 五 前各号に掲げるもののほか憲法改正案の広報に関する事務

2 協議会が、前項第一号から第三号まで及び第五号の事務を行うに当たっては、憲法改正案並びにその要旨及び解説等に関する記載、憲法改正案に関する説明会における説明等については客観的かつ中立的に行うとともに、憲法改正案に対する賛成意見及び反対意見の記載、発言等については公正かつ平等に扱うものとする。


 (協議会の議事)

第十五条 協議会は、憲法改正の発議がされた際衆議院議員であった委員及び当該発議がされた際参議院議員であった委員がそれぞれ七人以上出席しなければ、議事を開き議決することができない。

2 協議会の議事は、出席委員の三分の二以上の多数で決する。


中立性を装う文言に騙されないように。

改憲案が国会から発議されてから、国民投票の前に、国会内に設置された「広報協議会」が広報を行うことになってます。この協議会のメンバーは、国会の議席配分に応じて構成される。

ということは、衆参両議院それぞれ3分の2以上の賛成で国会が発議した後ですから、協議会ははじめから3分の2以上改憲案を支持する人。つまり、「広報協議会」とは改憲の公的宣伝機関です。

国家権力における立法権力内の一時的な勢力関係が反映されてはなりません。執行権力に対して立法権力が国民の代表として現れるとしても、憲法の原点は国民による国家権力全体への原始的命令ですから、これは逆立ちしてます。こういう逆立ちができるということは、国民を権力の支配対象とする逆立ちが前提されているということです。

(投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限)

第百六条 何人も、国民投票の期日前七日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条第一項の規定による場合を除くほか、一般放送事業者(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第三号の三に規定する一般放送事業者をいう。次条において同じ。)、有線テレビジョン放送事業者(有線テレビジョン放送法(昭和四十七年法律第百十四号)第二条第四項の有線テレビジョン放送事業者をいう。)、有線ラジオ放送(有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和二十六年法律第百三十五号)第二条の有線ラジオ放送をいう。)の業務を行う者又は電気通信役務利用放送(電気通信役務利用放送法(平成十三年法律第八十五号)第二条第一項の電気通信役務利用放送をいう。)の業務を行う者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない。

 (政党等による放送及び新聞広告)

第百七条 政党等(一人以上の衆議院議員又は参議院議員が所属する政党その他の政治団体であって両議院の議長が協議して定めるところにより憲法改正案広報協議会に届け出たものをいう。以下この条において同じ。)は、両議院の議長が協議して定めるところにより、日本放送協会及び憲法改正案広報協議会が定める一般放送事業者のラジオ放送又はテレビジョン放送(放送法第二条第二号の三に規定する中波放送又は同条第二号の五に規定するテレビジョン放送をいう。)の放送設備により、憲法改正案に対する意見を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び一般放送事業者は、政党等が録音し、又は録画した意見をそのまま放送しなければならない。


「広報協議会」はテレビとラジオで広報を行い新聞で「広告」を出せます。政党以外の市民個人や団体には開かれていません。

マガジン9条『伊藤真のけんぽう手習い塾』「第三十五回 憲法改正手続法 その3

メディアには税金が投入されるんでしょうから、中立性も怪しくなります。

第五章 補則

 (費用の国庫負担)

第百三十六条 国民投票に関する次に掲げる費用その他の国民投票に関する一切の費用は、国庫の負担とする。

……中略……

 八 国民投票の方法に関する周知に要する費用

 九 第百七条の規定による放送及び新聞広告に要する費用


カネの力で世論を買うことに対しても規制がありません。

個人の表現の自由をタテマエとして維持しながら、実質的にそれを奪い、他方で貨幣の権力による表現の自由を野放しにする点に、資本主義システムの自己解体的な性格を見ることができます。いうまでもなく、9条改正を待望む軍事産業はカネをつぎこむでしょうし。

そのほか、周知のように、最低投票率がないこと。最低投票率の規定がなにもありません。投票の過半数なら、たとえば、投票率が40%で、その半分が賛成となると、全有権者の5人に1人の賛成だけで、憲法が「改正」です。このようなわずかの賛成で改憲するような制度設計自体、主権者たる国民が権力を規制するという憲法の本源的意義に反します。

その以外の問題点は上記に挙げたサイトなど参照してください。他にも、保坂展人のどこどこ日記 国民投票法案の採決のための暴走を止めよう。一橋の渡辺治氏が代表となって立ち上げた改憲国民投票法案情報センターには、各社の社説など資料もけっこうあります。

日本の民主主義社会づくりを制御してきた規範である日本国憲法は、徹底すべき3つの大原理があります。

平和主義(戦争放棄)は、未来の普遍的な人類社会が姿を現した理念です。ここを中心として、基本的人権の尊重も実現しうるといってもいい。権力による人権侵害はたえず共同体の不安につけこむのですから。

国民主権は、もちろん国家権力に対する国民からの原始的命令という近代憲法の基本中の基本。三権分立等々のしくみは、この原理に対するしくみにすぎません。

そしていうまでもなく基本的人権の尊重。どれ1つをとっても欠かすことができない原理であって、今回の法案は、これらの原理1つ1つに照らしておかしいのです。
by kamiyam_y | 2007-04-03 17:19 | 自由な個人の権利と国家 | Trackback
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