さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

歴史的に形成された総過程Gesamtprozessとしての世界市場Weltmarkt 

諸範疇を1つの社会的総体の諸分肢として規定しながらそこを通過する円環運動、それが社会システムの根源の能動的運動である、特定の社会的形態における労働する諸個人の生産という運動です。封建制における商業であれば、封建的生産に媒介された総体の器官としてそれは有機的なものの要素として存立しているのであって、現代の発展した産業資本の形態としての商業資本とそれを比べたりしても、それが対象の概念的把握ではなく、見る人の関心を満たす行為にすぎないことはあまり理解されてはいない1つの真実です。「生産、分配、消費、交換」は「1つの総体の諸分肢をなしており、1つの統一体の内部での諸区別をなしている」(『マルクス資本論草稿集1』大月書店、MEGA Ⅱ/1.1 S.35)。「資本はいっさいを支配するブルジョア社会を経済力である」(S.42)という『経済学批判要綱』「序説」の言葉は社会システム総体を把握の対象としています。

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『資本論』第3部は、平均利潤の成立、商業資本と利子生み資本、土地所有といった範疇を理論的、概念的に把握するのですが、それは、第2部での社会的総資本の再生産および流通の理論的把握のうえに、資本がその外部にひきついだ総体の諸姿態を自己の必然性の浸透した、自己を内容とする形態として再産出していく運動を追求しています。

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実体的な共同体を想定しない孤立的・排他的・私的な諸主体間の疎外された社会的生産の運動である商品流通が地球全体を覆う物象的相互依存関係を形成することを前提にして、現在、資本の運動は株式会社の形態にいたるまで地球規模で不断に反復しています。生産過程の個々の分肢が国境を越えた協業を形成し、資本の循環の諸要素が地球規模で流動し、流動を否定し、多様な国民的出自の資本が分裂、統合を繰り返し、科学技術をその大気として架空資本が全地球的を駆け巡り、株式会社が世界市場を舞台とする超国籍的な企業の形態となり、自由な個人の私的所有と物象的に拡張する世界的生産との矛盾を世界的に開示しています。資本の運動は私的な形態における社会的生産の展開として国家を超え、個別的な生産過程をますます社会的な生産過程に転化し、その人類史的な存在理由である生産力の増大を遂行し終えようとしています。

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相互依存関係の決定的な確立は、一国主義をもはや不可能なものとし、国際協調なしでは人類が存在できない時代を生み出してます。真の選択肢は、国際協調というにとどまらず、成長のための成長にとらわれたこれまでの生産力発展からの転換として見いだされています。生産関係の物象化と自由な諸人格との分離した統一というプラットフォームから出発した現代は、制御されざる物象的に編成される生産発展そのものを止揚することを課題とする地平にまで自身を超出しているのです。自由な諸人格の協同的な制御の対象は世界市場という総体であり、この総体の主体的モメントとして諸人格は世界的諸問題に立ち向かう時代の課題において自己を自覚し、この総体自身の主体的形態として総体自身の自己否定を成し遂げようとしています。

国際協調を資本の形態にとどまるものとする従来の道に対して、自由な諸人格という生産発展の目的を対自化した真の選択肢としての国際主義とが明確に区別され自覚されねばなりません。国際協調を国際協調の資本主義的形態から区別せず、国際協調そのものを否定するのは、現代のラダイットというべき未成熟な態度として克服されねばなりません。「機械をその資本主義的充用から区別し、したがって攻撃の的を物質的生産手段そのものからその社会的利用形態に移すことを労働者がおぼえるまでには、時間と経験が必要だったのである」(『資本論』第1部、大月書店、S.452)。あるいは外部の敵対関係として現れる資本を外部そのものに放置した批判は資本の巧妙な反転運動の内部にとどまる疎外された理解というべきでしょう。

およそ資本主義という私たちの疎外された労働のシステムが達成したすべてのものを疎外とともに捨て去ることほどばかげた、また不可能かつ非人間的なことはありません。個人の古典的な、また社会的な自由、多様な欲求の実現と多様性の承認、寛容と共生、自由な個性、それらを支える国際化と生産発展、科学と民主主義の発展、この数世紀の人類の努力がもたらしたすべての成果を私たちは受け継ぎ、発展させていくことができるし、そうしていくことが未来の私たちと共存する現在の私たちの責務です。そしてこのことが資本主義というシステムの内部でもはやこのシステムを狭隘な外皮として脱皮するほかないないほどまでに発展した即自的な未来社会を顕在化すること、自由な人間社会の形成として実現することなのです。人類史を世界史として実在化した歴史の頂点を私たちは生きています。「それは、生産過程の物質的諸条件および社会的結合を成熟させるとともに、生産過程の資本主義的形態の矛盾と敵対関係とを、したがってまた同時に新たな社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」(『資本論』第1部、S.526)。工場立法の一般化についてこのように19世紀に語られた資本の運動の弁証法は現代においてこそますます豊かな内容をもってリアルなのです。

by kamiyam_y | 2017-01-25 21:14 | 資本主義System(資本論)