さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

恫喝解散は、憲法典の欠缺の利用か

▽ テレビはあまり見ないなんてこのまえ書きましたが、NHKでいま放映されている自然スペシャル、ついみてしまいます。

雨期にジャングルに拡がったアマゾンの川面を、ナマケモノがゆったり泳ぐ姿など、めずらしい映像がいっぱいでおもしろいです。

アマゾンのカワウソが、ピラニアをむしゃむしゃ音を立ててむさぼり食う様子なんて、とっても癒されますよ。
自分の卑しい姿が大写しにされているようで、魂の救済を感じます。んなわけないか。

撮影スタッフのみなさん、ご苦労様。よくぞとったという映像が多く感心です。
政治家に弱いNHKも、情報の集積点としては公共性がありますな。

▽ お盆休みですね。

世間に合わせて、私も昼間からビールなんぞ飲んでみました。

幸せな気分ざんす。

最近の数日は、気分を盛り上げたいときは、湘南乃風のRockin'Wild~10-FEET REMIX~。

今日3回くらい聴いたな。

おなじCDに入っている「2005年4月6日、大日本警告JPNへの意義主張」って曲、すべて賛同するわけじゃないんですが、「アメリカが作るのか日本の政治は」とか「×××の幹事長の名前すらもわからねぇ」というフレーズ笑えます。

で、あっしの頭の中でこれをきいた妖精さんが、ささやいてきました、「政権のこと、あんたも、考えなかといけなか、酔い覚ましにどうかいな」。

▽ 今回の衆議院解散について、「郵政解散」というネーミングを定着させようとする小泉に対して、日刊ゲンダイは

「自爆解散」

なんて言ってます。私は「粛清解散」「恫喝解散」とでもよぶことにします。郵政法案反対議員に対する脅しの実行だからです。議員にとっての「落選」の恐怖にしても、それを脅しに使う取引にしても、政策や理念よりも貨幣の権力がものを言う顛倒があらわになっている、システムの亀裂にすぎません。

衆議院が内閣不信任決議をしたわけでもなく、ましてや衆議院では法案は通っている。

たかが郵政法案です。

衆議院解散という速報をきいてまずおもったのは、これって憲法に則っているのか、憲法のグレーゾーンの利用ではないのか、ということです。

衆議院解散には、内閣不信任決議に対する69条解散と、天皇の国事行為7条3号による解散とがある、というかんたんな説明だけではよくわかりません。手元にある憲法のテキストをみてみます。

辻村みよ子『憲法 第2版』(日本評論社2004年・初版2000年)から。

国会の召集権についてまず。

召集の決定権の所在については、……一種の憲法規範の欠缺であり、助言・承認権をもつ内閣に実質的決定権限があると考えるのがやむをえない帰結といえよう。

助言・承認が国事行為の実質的決定権を含まないという立場にたつと召集決定権者を確定することが困難となるからである。この点、学説では、国事行為には本来実質的決定権が含まれないとすると、7条以外に根拠を求めることが必要となるため、憲法53条が臨時会の召集について「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる」と定めることから、すべての召集権が内閣にあると類推するものが多い。

しかし、常会(52条)や特別会(54条)については召集権の主体は明示されておらず、比較憲法的にみても国会の自律集会制度もありうる以上、類推によることは立憲主義に反することになる。そこで、7条2号を国会召集の原則的根拠規定と解さざるをえないとする見解(杉原・憲法Ⅱ500頁)も主張されるが、他方、天皇が実質的決定権を有すると考えることは象徴天皇制の構造自体から問題があり、……。(89頁。読みやすくするため行替えを入れた)


ふうん。天皇の国事行為として7条2号は、国会の召集をあげています。象徴天皇制であるから、天皇の国事行為には「実質的決定権限」は認められない。とすると、召集決定権は「助言・承認権」をもつ内閣にあるということになる。しかし7条以外に根拠を求めると、類推となり立憲主義に反する。そこで7条2項を国会召集の根拠規定とすることになるが、そうすると、天皇に実質的権限を認めることになってしまう。

いずれの見解も一貫しないというわけですが、この点を論評する必要はありません。興味深いのは、天皇の国事行為の「実質的決定権」が憲法規範に明記されていないことが、「憲法規範の欠缺(けんけつ)」とよばれている点です。

当然、7条3号による国事行為による衆議院解散にも、同様の憲法学上の論争があることになります。

解散は、議院に属する議員全員に対して、その任期満了前に議員としての地位を喪失させる行為である。議会解散権は、君主主権から国民主権への展開、近代の「純粋代表制」から「半代表制」への展開のなかで重要な機能を果たしてきた。(475頁)

現代の議会政治や議院内閣制においては、任期満了前の解散・総選挙によって民意を的確に反映させる機能や、内閣と議会との協調関係の破綻に対処して内閣を安定させる機能などがある。(同上)


解散が果たすこの役割そのものには異論はないとしておきましょう。
そうだとしても、学説状況は単純ではないのです。

憲法学説というのは、念のためいえば、現代社会の自身の自己認識であって、純スコラ的であっても、単なる机上の空論ではなく、システムの正統性という現実的な要因をなす現実的な力です。社会的な運動や対立が自覚的な姿をとる1つの頂点が、国家権力をめぐる憲法論にある、といってもいいでしょう。

そこで学説は、(I)衆議院自身が解散決定できるとする自律的解散説(①)と、(Ⅱ)内閣に実質的解散権があるとする他律的解散説に分かれ、その根拠をめぐって、後者(Ⅱ)はさらに、7条説(②)、65条説(③)、議院内閣制等の制度全体を根拠とする制度説(④)に分かれる。また、解散は69条の場合に限定されるとする69条限定説(A説)と、69条以外の場合にも解散を認める69条非限定説(B説)に分かれ、前者(A説)では解散権の根拠として69条をあげることになる(69条説⑤)。これに対して、後者(B説)では69条以外に根拠を求めることが必要となるため、学説状況は錯綜していた……。(同上)

これらのうち、解散の根拠を7条に求める②の7条説は、厳密には、天皇の解散は形式的・儀礼的な表示行為に限定されるため、実質的決定権は「助言と承認」を通して内閣にあるとする7条説(a)と、7条三号の解散は本来政治的なものであるとしても天皇は拒否権をもたないため結局内閣の「助言と承認」に拘束されると解する7条説(b)(杉原・憲法Ⅱ290頁)に区別される。……とくに7条説(a)については、内閣の「助言と承認」は天皇の形式的・儀礼的解散宣示行為についての「助言と承認」となるためそこから実質的権限は導かれないとする批判が提示される(杉原・憲法Ⅱ291頁、樋口・憲法I315頁参照)。(475-476頁。)



実質的解散権をどこに求めるかで、

Ⅰ ①衆議院による自律解散説
Ⅱ 内閣による他律的解散説

があり、後者は、その根拠によって、

 ②7条説
 ③65条説
 ④制度説

に別れる。7条説に対しては、「内閣の「助言と承認」は天皇の形式的・儀礼的解散宣示行為についての「助言と承認」となるためそこから実質的権限は導かれないとする批判が提示される」(476頁)。

解散も、

A説 ⑤69条限定説 69条の場合に限定されるとする
B説 69条非限定説 69条以外の場合にも解散を認める

とがある。

実際の運用では、憲法施行当初は野党が69条限定説をとって非限定説をとる政府と鋭く対立したが、結局、69条による解散は、1948年12月23日(第二次吉田内閣)、1953年三月14日(第4次吉田内閣)、1980年五月19日(第二次大平内閣)で実施されたのみで、それ以外の解散はすべて7条三号に基づいて実施され、69条非限定説(B説)が定着している。……

……憲法の明文上の限界や、主権者の意思を常時反映させるための解散の民主的な機能を重視する必要があることからすれば、解散の現代的機能を前提とした現代的な制度説(④')を構築することも意味があろう。……

……ただし、内閣による解散権の濫用や恣意的な運用を制約する意味では、69条限定説が重要な意味をもつことも否定できず、この立場を再考することも今後の課題といえる。(476-477頁。行替え引用者)


7条解散の既成事実化を追認する形で学説も、69条非限定説が定着したということでしょうか。明文上の規定との矛盾を回避するために、解散を民意の問い直しとして説明する見方も出てきたのでしょう。

しかし何をもって民意とみなすのか。内閣による解散権乱用は制限されねばならないし、ましてや、首相に解散権があるかのようにみなすのも、どういうもんなんじゃ?

隣国や現場公務員を悪玉にして、動員される思考停止、また終戦記念日に動員され、選挙にも動員されるのか。その程度の成熟なのか、この社会は。
スローガンは空疎であるほど社会的錯覚を増長する。オウム返ししやすい台詞ほど世論操作に効果を発する。改革の「信念」とかさ。保守メディアがこんなクーデター的喜劇を讃えるのも皮肉なものだ。

もっとも、無知の大河が歴史の振子を大きく揺らすのであれば、こうした喜劇も、雑多な政治団体を、新自由主義、保守主義、社会民主主義、第三の道等に振り分ける作用を果す可能性がないともいいきれないけど。

樋口陽一・大須賀明編『日本国憲法資料集 第4版』(三省堂)みてみましょう。

解散権濫用を戒める保利前衆議院議長の遺稿「解散権について」(1973・7・11)
〔1979年2月に死去した保利茂前衆議院議長が、在任中の前年7月に大平首相(当時)周辺から流された衆院の解散説に反発、解散権のありかたについて見解をまとめていたことが、死後明らかになった。以下その要旨〕

……内閣に衆議院の解散権があるといっても、内閣の都合や判断で一方的に衆議院を解散できると考えるのは現行憲法の精神を理解していないもので、適当ではない。

……現行憲法下で内閲が勝手に助言と承認をすることによって、7条解散を行うことには問題がある。それは憲法の精神を歪(わい)曲するものだからである。

……“7条解散”は憲法上容認されるべきであるが、ただその発動は内閣の恣意によるものではなく、あくまで国会が混乱し、国政に重大な支障を与えるような場合に、立法府と行政府の関係を正常化するためのものでなければならない。“7条解散”の濫用(らんよう)は許されるべきではない。……(1979・3・21朝日新聞)(156-157頁)


7条は解散権の根拠としては曖昧すぎ、厳格に運用すれば69条が根拠になるはずだが、さしあたり、7条解散説を仮に認めるとしても、郵政法案の参院での否決が、解散を要する異常事態を、「国政に重大な支障を与えるような場合」を意味するのでしょうかね。あるいは、立法府による内閣不信任を意味するのでしょうかね。否決した参院は元のままでっせ。

郵政の陰に隠されたサラリーマンの負担増(定率減税廃止、所得税控除縮小等々)、分配の変更なのだから、重大な国民的議題ではないですか。共謀罪だって終ったわけではなく監視が必要。重要法案ほかにもいろいろあるし。

冷静になって考えてみましょうよ。ワンフレーズポリティックスの支配から脱却できるよう、単純な敵味方論で煽られないよう。

国家機関における最高の権威は理念的には立法権にあります。

行政は、立法としての国民の意思を執行する機関です。執行権力を抑制するための理念的枠組みが、立法権の至上性にあるとすれば、仮に立法権が国民から大きく独立化しずれてしまったばあい、この立法権の再構成をする権限はどこにあるのかといえば、国民にあるはずです。首相の権限は、そうだとするとどこに由来するのでしょうか。

執行権力が世論を僭称することは、専制の正統性を主張しないかぎりは、いや、そういう主張をしてさえ、正常な民主政体においては筋の通らない話でしょう。議会解散権の実質的な決定権が首相のものとして無制限に承認されているわけではありません。また、多数派である自民党自体がもともと郵政をめぐっては分裂していたわけです。

立法権の空洞化も、憲法の空洞化も、現実の巨大な進展を背景にしている現象でしょう。とすれば、こうした空洞化も、現実的な基盤があり、それをどう変えていくのかが問われます。こうした空洞化も、いわばその反作用として民主主義を深め、内容を充填していくのであり、民主主義の発展という新たな現実性に道を開く歴史の契機です。

民意の反映、解散権の意味と国際比較、など考えたいことたくさんあるのですが、とりあえず、感じたのは、今回の解散を「粛清解散」と規定するとすれば、これは、あたかも、株主から選出された経営者が株主総会の意向はけしからん!と株主をクビにするようなものではないか、ということです。


衆議院解散とは、憲法上の根拠をめぐっては、こんなふうに論争のある大問題!だということでした。

▽ また酔いに行きます。じゃあ。

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追記 8月12日午前2時

帰宅してから読み直したら、文章が少し酔っている。根本的に直すのは無理なので、ちょっと加筆・修正しました。

追記2 11時48分

「単純な敵味方論で煽られないよう」と上に書きましたが、けさ朝日などの大新聞の社説をみると、おおかた小泉支持的で、敵味方をハッキリさせるのが小泉の手法なのだと、大衆の思考停止を利用するスタイルに無批判でした。大衆の無知を扇動するスタイルに無批判でした。

古い自民党を解体するというイデオロギーにとっては手法は何でも許されるのでしょうか。イデオロギーの勢いの前には、冷静さもふきとばされて当然なのでしょうか。

(このイデオロギーの背景には、じっさいに自民党が分裂的だということがある。理念的にも市場主義と国家主義が手を組んだりケンカしてみたり。地域的利害や産業的利害を代弁する集金組織の集合体、雑多な利害を集中する装置、共同体的利害組織としても、分裂的です。高度成長に役立った同じ要因が、重荷に転化している現状は、他の分野と同じです)

これに比べると、今日の「日刊ゲンダイ」は「『否決されたら解散する』と脅していたのは野党ではなく自民党内の……身内だ」「後任される前議員だって『法案には反対だが、いま解散されるのは困るから賛成した』というヤカラがゾロゾロいた」と論じていました(2面)。

いくつかおもしろいコメントも掲載していたのでちょっと引用しておきます。(日刊ゲンダイは、個人のエッセーはたまに???というのが載るんですけどね)。

「自民党から反対票が出たことは総裁としての指導力のなさの結果で、……党議拘束を破ったというなら、自民党規約にのっとって党紀委員会にかけて処分すればいいことです。なのに参院で否決されると『国民に信を問う』と問題をすり替えた」(政治評論家・本澤二郎)。

「ハナから小泉首相は『法案修正には応じない』と突っぱね、必要な作業を一切放棄してきた。……首相は立法権を侵害し、議会政治を否定していることを自覚すべきです」(明大教授・山田朗)。


5面の高橋乗宣「日本経済一歩先の真相」も

「郵政をめぐる国民投票」という理屈は「冷静に判断すればムチャクチャな論理」で「解散」ではなく「内閣総辞職の場面」

だと述べ、

7面の黒木亮「国際金融裏読み&深読み」も、候補者が選挙費用を制限されている英国とは異なり、

「日本では選挙に莫大な金がかかる。それゆえ使った金を取り戻そうと政治が腐敗するのだ」と論じる。黒木はまた、英国における官僚と政治家の接触禁止をあげ、「日本のように政治家が役人を呼びつけてさまざまな要求をし、選挙民も、公共事業や補助金を地元にもってきてくれる政治家がよい政治家と思っている国とは格段の違いがある」

としています。

ケインズ主義などとイメージされる資本の国家は、日本において妥当するさいには、日本的・共同体的(一種アジア的)な土壌において育ってきました。

貨幣の権力は皮肉なことに、法治国家というよりもこうした共同体的な人治国家においてむしろ、あからさまかつ野蛮です。

偉い議員さんといえば、地域や産業から金を引き出し、役人を「呼びつけ」中央から見返りをもってくる政治家とみなされるような風土において、天下の回りものである貨幣がもつ公共性は、奇妙に特殊利害として渦を巻き無秩序に妥当するのでした。

そんな諸利害のごった煮が、自民党であったわけです。


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追記3 8月22日

▽ 他の国の憲法を調べてみましたが、首相の解散権を憲法で定めているのは、ドイツ連邦共和国基本法。やっぱり天皇の国事行為による解散はあいまいです。

第68条 (1) 自己に信任を表明すべきことを求める連邦総理大臣の動議が、連邦議会議員の過半数の同意を得られないときは、連邦大統領は、連邦総理大臣の提案に基づいて、21日以内に連邦議会を解散することができる。

ちなみに戦前のワイマール憲法では「ライヒ大統領は、ライヒ議会を解散することができる」と無限定的だったようです。 (樋口陽一・吉田善明編『解説 世界憲法集』三省堂・第4版2001年)。

▽ 付けくわえる点はないのですが、いくつかのブログを拝見して確認をひとつ。今回の解散劇はここに書いたように形式的にも問題のあるものであり、それを利用した小泉の行動は、形式上違法ではないとしても、少なくとも、内容的には、「国政に重大な支障を与えるような場合」ではないような出来事を、解散権行使の対象にすり替えたものです。形式的合法性だけではなく、内容上のすり替えこそ、内容上の正当性破綻こそ、冷静に見つめる必要があるかと。ファシスト的資質は合法的に貫徹されるのですから。
by kamiyam_y | 2005-08-11 19:40 | 民主主義と日本社会 | Trackback(5) | Comments(0)
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