さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

ある日のとりとめない会話 剰余価値率・蓄積率

労働問題が発生するのは、労働者の社会的な集合力が貨幣の自己増殖によって人々に対立的に発展するからですが、それだけではありません。働く人々が人権主体として立ち現れたこと、主体の側での発展が決定的です。平たくいえば、労働者が目覚めているがゆえに、労働問題が労働問題として認知されるのです。労働者の社会的力が工場内部に協業として実在化すれば、私的所有の内部の物の消費過程にとどまることなく、生産過程内部に人権主体である諸個人が集うことになります。

人権という武器を手にしてはじめて諸個人にとって、社会をつくりだす転倒は正しさに反するものとして、蔓延る人間破壊は不正として明確化されるといってもよい。市民革命によって幕を開けた近代、その近代の徹底線上に現代は展開しています。人権への知識人的虚無主義は正義を嘲笑して真を自称する病理に通底しましょう。

大工業は協業を完成し、そのことによって生産体内部に労働者の共同世界をつくりだし、社会的理性による制御を必然化しました。労働時間の制限、作業場の安全衛生確保等が生産組織である企業にその責務として課される現代的世界が登場します。

この理性的制御は、労働時間内に健康的に働けるような労働環境を得る労働者の人権だけではなく、労働時間を制限して人間的発達のための自由時間を確保する権利を実現していこうとすることであり、人権が生産における人権、労働者の人権として深化することを意味します。

 すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。(世界人権宣言第24条、外務省仮訳)
 すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。(同第27条 1)


世界人権宣言とILOの宣言をふまえ、OECD多国籍企業行動指針はこう謳っています。

OECD多国籍企業行動指針
A. 企業は次の行動をとるべきである。
 2. 企業の活動によって影響を受ける人々の国際的に認められた人権を尊重する。(外務省仮訳2011年)


直接生産している社会組織が人権配慮義務を負うのです。これはまさに協業にもとづく「工場法」以降の人権発展の流れにあるといえましょう。

日経の記事によれば、フォーチュントップ500社のじつに「97%(484社)が、性的指向による差別禁止規定をもつ」のだそう。
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDG1603G_R21C13A2CC1000/

ここでガガフェミに触れてもよいでしょう。反差別の運動家として知られるレディ・ガガですが、ウィキペディアでは日本語版も英語版もLGBTの権利向上に取り組む真摯な姿勢について記述されています。
http://www.jackhalberstam.com/gaga-feminism/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%AC
http://en.wikipedia.org/wiki/Lady_Gaga

職場の安全衛生を維持する義務もあれば、人権を維持する義務も企業にはあります。

消費者問題も畢竟労働問題に同じ。消費者の権利は生産内部を公開し、生産内部の社会的労働組織の責務を明らかにしていきます。CSR(企業の社会的責任)の本体は、労働する諸個人の社会的自覚にほかならないのです。

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T:労働力の日価値、つまり賃金が10ターラーだとしましょう。むろんここでは価値通りの売買を想定しています。1つの産業資本はあらゆる資本の代表・見本、労働者もあらゆる労働者です。

S1:労働者とその子が社会的平均的に消費する1日あたりの生活手段の価値が10ターラーなんですね。

T:そうです。必須生活手段を労働者が消費することが、労働力という商品の再生産なんでしたね。さて、糸生産の資本家が「賃金奴隷」を1日に100人買って、剰余価値を得るとしましょう。1労働日が10時間。半分が必須労働で、半分が剰余労働としましょう。もちろんこれは労賃という法的関係ではみえないことです。

S2:剰余価値率100%ですね。

S1:賃金奴隷というのは労働者は法的に自由だが、じつは労働力を商品として売り、剰余価値を生みださないと生きていけないという強制をさしているんですね。

T:はい。糸生産の資本家は、100人の労働力を1日に消費するわけです。100人の日労働1000時間を吸収するのに原料の綿何百キロかいるとしましょう。ただの数値例ですからほんとに何でもいいですけど、技術的に正常な割合で適切な量の綿、そうですね5トンの綿が必要で、それは3000ターラーの価値をもつ。資本家は3000ターラーを綿に支出します。

S1:原料は他にもありますが。

T:これも例なので原料は綿だけにしましょう。染料用の虫150キロとか、そのための水とかも無視。3000ターラー毎日綿を買っている。この労働対象の部分ともうひとつ、労働手段ですが、これは紡錘だけにしておきましょう。

S2:固定資本ですね。全部消費するのに何度も生産に用いられ、その都度の生産で価値が一部分ずつ、生産物に移ります。

T:そのとおり。そこで、5トンの綿を糸に加工するさいに紡錘からの移転する価値が1000ターラーだとします。不変資本は1日の生産物糸5トンに(あ、綿のうち屑になる部分は無視)、どれだけ保存されてますか。

S1:糸をつくるこの生産過程以前にあった古い価値が受け継がれているだけですから、不変資本なんですね。

S2:綿の価値3000ターラーと紡錘からの移転価値1000ターラーで、合計4000ターラーです。
T:そうですね。不変資本はconstantのcで示して、これを4000cと表します。1000時間の労働は、綿を糸に合目的的に加工することで古い価値を保存するわけです。

S1:具体的有用的労働の作用でしょうか。

T:はい。同時に労働は刻一刻、新たな労働時間を付け加えていきます。

S2:労働力を資本家が消費するのが、労働させるということで、この生きた労働が労働力そのものの支出として、抽象的人間的労働としては価値を生産物に加えるということですね。

T:ええ。労働力が10ターラーで100人ですから、1000ターラーが賃金として支出されます。1000ターラー貨幣は労働力100本に変り、これが生産過程で消費されますが、この消費が生きた労働ですから、これは労働力の日価値を超えて剰余価値を生みだします。剰余価値を生むことが、労働力商品の消費で実現する使用価値というわけです。

S1:1人5時間の労働が10ターラーを生み、さらに5時間が10ターラーを生みだすのですね。とすると、1日100人を消耗すると、その100人の労働力価値の等価(総賃金)=再生産コストと剰余価値がそれぞれ1000ターラーずつ付加されています。

T:可変資本をvariableのvで剰余価値をMehrwertのmで示しますと、1000vという可変資本の補填=再生産部分と1000mが生産物に付加されています。ですから生産物糸の総生産物価値は4000c+1000v+1000mと表現できますね。

S1:わかりました。

T:少しまとめておきましょう。「生産物価値形成において、労働過程の客体的要因と主体的要因とが演じるそれぞれ異なる役割」に注目してみます。客体的要因は生産手段(労働対象と労働手段)、主体的要因は生きている労働、活動しつつある労働力です。生産手段はその価値を生産物に移転保存しますが、労働は新たに価値を付加するのです。ですから、生産手段に投下・前貸しされる部分を不変資本、労働力の買い入れに用いられる部分を可変資本というのでした。
 もう少し例解をしてみましょう。剰余価値率を計算してみて下さい。

(1)賃金は1人1日5円。
(2)紡績工場での1週間(5日間)の生産。
  A.生産手段。
   流動不変資本
    原材料41トンの綿(加工時に1トンが屑)5000円。
    燃料(石炭・ガス・油)500円。
   固定資本
    建物(500000円・耐用年数500週)。
    550個の紡錘(計5000円・10週間で消耗)。
  B.毎日100人の賃金労働者が雇われる。
  C.1週間(5日間)の生産物は、40トンの糸で、総価値14000円。

さあ、どうなりますか。

S1:まず、生産物価格に含まれる不変資本価値ですね。

S2:原材料5000円と燃料500円で5500円。

T:それと。

S1:固定資本ですが、建物500000円を耐用年数500週で割ると1000円、550個の紡錘5000円を10週で割ると500円、計1500円が移転します。

S2:つまり5500円と1500円で7000cですね。

T:補填・回収されるべき1週間の可変資本の大きさは?

S1:5円×100人×5日ですから、2500円。2500vです。

S2:そうすると、総価値14000円から、7000cと2500vとを引くと4500円。

T:4500mですね。

S1:4500m÷2500vは1.8。剰余価値率m'は180%です。

T:剰余価値率が搾取率であるのはわかりやすいけれども、なぜ「真の増殖率」なのですか。

S2:不変資本はその生産過程で増えたものではなくて、受け継いだだけだからです。

S1:労働力が価値を創造するので、可変資本に対する剰余価値をみないといけないと思います。不変資本+可変資本に対する剰余価値では、生産過程のなかで剰余価値が生みだされることがみえませんから。

S2:境界線は本質的に旧価値cと新価値(価値生産物)であるv+mの間にあるということですね。剰余価値についてですが、それを資本に転化することを蓄積というのでしたね。蓄積とは1000mを資本家が個人的消費に用いずに、資本として投下するというイメージでいいのですか。

S1:蓄積率が0%なら資本家がすべて消費で、100%ならすべてを追加資本にすることですね。

T:ええ。蓄積率とは、剰余価値のうちどれだけを蓄積に振り向けるかということです。例えば、剰余価値率100%。蓄積率50%。20000c+5000vという構成の紡績資本があるとしましょう。単位は何でもいいです。不変資本は1年で全部消費されるとします。この資本は年間に、剰余価値5000を生みますね。この剰余価値5000のうち半分が追加資本に転化するので、それは?

S1:2500です。

T:追加資本の構成も原資本と同じであれば、どうなりますか。

S2:20000c+5000vで、4:1ですから、2500のうち追加不変資本が2000、追加可変資本が500になります。

T:記号で示すと追加資本は、2000mc+500mv、と表せるわけです。
by kamiyam_y | 2014-01-06 23:59 | 資本主義System(資本論)