さっぽろ地下鉄のなかでマルクスを呼吸する、世界を呼吸する

偶然性の支配への民主政治の転化

内田樹のブログに興味深い記事があると大学院生が教えてくれたので、読んでみました。これです。

同一労働最低賃金の法則について(7/26)
http://blog.tatsuru.com/2012/07/26_1559.php

雇用形態の複線化は論理の必然として、「同一労働の場合、それを最低の賃金で達成するものを標準とする」という「同一労働・最低賃金の法則」を導くということに私は導入時点では気づかなかった。
でも、今はわかる。
職場に業務内容が似ており、雇用条件の違う労働者を「ばらけた」かたちに配備しておくと、最終的に雇用条件は最低限まで引き下げることができる。
だから、経営者たちは非正規雇用の拡大に固執したのである。


最低の雇用条件、最低の賃金を基準にするための効果的な布陣が、同じような労働に異なる雇用形態の賃労働者を配置することだった、というわけですね。人間語を喋らない資本が、経済界や大学人の言葉を介してこれを実行してきたのがいってみれば労働法制の新自由主義的解体だったのでした。

・・・労働日の限界があたえられていれば、利潤の最高限は賃金の生理的最低限に照応するということ、また、賃金が一定であれば、利潤の最高限は労働者の体力が許すかぎりでの労働日の延長に照応するということ、・・・。(『賃金、利潤、価格』服部文男訳、新日本出版社、179頁)


利潤の最大化とは労働時間が一定であれば賃金の最低化であり、賃金が一定であれば労働時間の最長化として規定されます。

資本が、同じような労働に異なる労賃の契約を結ぶ賃労働者を配備することは、賃労働者の分断をもたらし、この分断を通して、労働力の価格の基準を下げていくことができます。

もし賃労働者がこの分断を受動的に受容するにとどまらず逆に支援したりするならば「同一労働最低賃金」の法則が徹底して貫かれるほかありません。この分断を政治が助長するならば、政治とはその実態において賃金の最低化をめざす物象の運動に入れかわっています。

自由な人間を建前とする政治が、現実的再生産過程総体においては、利潤を生みだす人間材料を低廉化する手段に転化しています。しかし、政府はまた自然発生的・無政府的・物象的な生産過程に対する社会の関与でもあって、内田さんの言葉でいえば、賃金の最低化を堂々と政治綱領にするというのは、「トリクルダウン」という建前すら捨てた「前代未聞」(!)な運動といってよい。

諸個人の孤立を強力にすることは、諸個人に対立しながら彼等を束ねて使う疎遠な力を強力にすること。資本とは孤立した諸個人の彼等自身に対立する彼等の普遍性、彼等の自然的・社会的諸力であり、経済法則として自立化した生産関係の力です。

非正規雇用増大の起点は賃労働者の自由意思にではなく、賃労働者の分断によって労働力商品の価格を押下げるようとする資本の価値増殖運動にあります。

孤立しあう諸個人が、自らの孤立した振舞を自由な振舞として納得するなら、自立化した物象化した生産関係を透視することはできません。諸個人自身の社会的力、経済法則の力が彼等に対して彼等が制御できない「偶然性」として襲ってくるのを、我慢すべき運命と取り違え、それに跪き、賃労働者同士で労賃引き下げを押しつけあう共食いを行い、ますます「偶然性」に支配されてしまう。他の賃労働者の労賃引き下げを願う一賃労働者の排他的私的振舞は彼自身の労賃引き下げへと反射します。相互的衝突は物象的連関の力を解き放つ。

・・・彼らが労働組合などによって就業者と失業者との計画的協力を組織して、かの資本主義的生産の自然法則が彼らの階級に与える破滅的な結果を克服または緩和しようとするやいなや、資本とその追従者である経済学者とは、「永遠な」いわば「神聖な」需要供給の法則の侵害について叫びたてるのである。・・・(『資本論』岡崎次郎訳、大月書店、S.669-670.)


人民諸個人が物象化された世界の細分化から超出しようと試みること、企業の私的利害の壁を越え、業界の衝突という物象的運動を超えようとすること、国益なる既成態による拘束を解こうとすること、「就業者と失業者」の壁を超える連帯をつくりだすこと、これらなしには、労賃・雇用の「複線化」による賃金最低化と窮乏化を抑えることはできません。

このように、救貧法監督官の報告書には、就業の不安定や不規則、労働中絶の頻発と長期継続、このような相対的過剰人口のいっさいの徴候が、それぞれアイルランドの農業プロレタリアートの苦痛として現われている。……こういうわけで、報告者たちの一様な証言によれば、暗い不満がこの階級の隊列にしみこんでいるということや、この階級が過去をなつかしみ、現在を憎み、未来に絶望し、「扇動家たちの悪い影響に左右され」、ただ、アメリカに移住するという固定観念を抱いているだけだということは、少しも不思議ではないのである。(同上『資本論』S.736.)


「過去をなつかしみ」「暗い不満」「扇動家達の悪い影響」という言葉からは、ファシズム的状況を生成する病的状況を想起します。
by kamiyam_y | 2012-08-25 23:21 | 企業の力と労働する諸個人